国立新美術館(港区六本木7)で3月19日、現代日本を代表する画家の一人である中村一美さんの初期作から新作までを網羅した大規模個展「中村一美展」が始まった。
中村さんは、1956(昭和31)年生まれ。80年代から作品を発表し、「Y型」や「斜行グリッド」などの記号的なモチーフによる表現主義的な絵画で注目を集めた。その後、さまざまな古典やグループ展で作品を発表。1999年にはセゾン現代美術館(長野県軽井沢町)、2002年にはいわき市立美術館でも個展を行った。
同展は、中村さんの創作活動を80年代から現代まで3部に分け、150点以上の作品で、そのモチーフや表現の変遷を追いながら中村さんの絵画実践の全容を紹介する。第1部の「空間としての絵画」では、80年代の「Y型」「斜行グリッド」「開かれたC型」のモチーフに注目し、初期に中村さんが探求した空間表現を紹介する。
第2部の「社会意味論としての絵画」では室町時代の寺社縁起絵「清園寺縁起」を参照した「連差-破房」など、90年代の世界の状況の大きな変化の中で中村さんがその影響を受けながら描いた作品を紹介。中には、今回の作品の中で最も大きい4メートル×9メートルの大作「連差-破房XI(斜傾精神)」も。中村さんは「社会変革のドラスチックな進行によって、社会というものが私自身に押し寄せてきた。いろいろなものが崩壊する感覚が自分の中に入ってきて、それが無意識的に絵画に現れた」とコメントする。
第3部の「鳥としての絵画」では、2000年代に入り、中村さんが絵画の主題として見いだした「鳥」に注目。2000年代の半ばから制作し、300点を超えるシリーズとなった「存在の鳥」などの作品を紹介する。同シリーズのうち18点を展示する展示室は、4つの壁面に中村さん自身が「斜行グリッド」をモチーフにしたウォール・ペインティングを施したもの。中村さんは「初めての試みなので、どう見えるのか不安はある。しかし、白い壁に同じシリーズの作品を掛けた前の部屋とは明らかに違う風に見える。作家の中にある差異を重ねてみたらどう見えるかという挑戦」と話す。
開館時間は10時~18時(金曜は20時まで)。火曜休館。入場料は一般=1,000円など(高校生以下無料)。5月19日まで。4月26日には中村さんの講演会、5月10日にはワークショップも予定する。