特集

がらりと変わった客層、続々増える新店舗!
伝統+流行の魅力「麻布十番商店街」

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■なぜ、麻布「十番」? 麻布十番商店街、発展の歴史

麻布十番の歴史は、江戸時代中期から始まる。もともと「阿佐布」もしくは「安座部」と呼ばれていた集落。ここで麻を栽培し、布を織っていたことから「麻布」という漢字が使われるようになった。では、なぜそこに「十番」が付いたのか。そのきっかけは、今も麻布十番付近を流れる古川の改修工事だった。明暦3(1657)年、徳川幕府は明暦の大火後、救済事業の一環として古川の改修工事を実施した。現在の麻布十番は、その麻布での工事において全十区の十番目の工区にあたることから、「麻布十番」となったと言われている。古川の形状は、一の橋で大きく曲がっており、ちょうど荷揚げ場を作るのに適していたことから商品の集積場となり、次第に商業が活性化していった。そして麻布十番商店街振興組合が昭和38(1963)年に発足、現在の商店街へと発展していく。


古川

江戸時代から続く老舗は、豆菓子で有名な「豆源」を含めて8店舗。最も古い店舗は、今年で創業222年になる。一方、老舗ばかりの商店街かというと、ニューヨーク生まれのドーナッツ専門店「ドーナッツプラント麻布十番店」や、最近ヘルシーなことで注目されているジンギスカンの専門店「麻布ジンギスカン」といった新店舗が続々と増えている一面もあり、伝統と流行が混合した街としても、雑誌などで注目されるスポットとなっている。


麻布十番商店街公式ホームページ
麻布十番商店街

■「十番に行けば何かある」期待感のある商店街を目指して

その新店舗の中で六本木経済新聞が注目したのは、2年前にオープンしたアジアンカフェ&ダイニング「Lau-Lau」と、今年7月にオープンした立ち飲み屋「BISTRO JU-BAN STAND(十番スタンド)」。この2店舗は姉妹店で、両店とも麻布十番商店街のパティオ通りに位置している。麻布十番はもともと、車か徒歩でしか来られないほど交通の便が悪く、「陸の孤島」ともいえる場所だった。その頃は、近くに大使館やテレビ朝日があることから、外国人、芸能人、テレビ関係者など、金銭的に余裕のある客層が多くみられるのが特徴だった。しかし、2000年に地下鉄が開通、2003年には観光名所となった「六本木ヒルズ」がすぐ近くにできたことで、比較的若い年代の客層も獲得できるようになった。また、ワンルームマンションも増え、一人暮らしの若い女性が遊ぶ街にもなってきている。このような客層の変化をいち早く察知し、若い客層が気軽に入ることができ、よそ行きではなく日常的に使ってもらえる店としてLau-Lauと十番スタンドがオープンした。


パティオ広場 lau-lau 十番スタンド

Lau-Lauのランチは850円。客単価は、渋谷や新宿といった若い女性客が集まる街と同じような値段だ。また、両店とも麻布十番では今までにみられなかった深夜4時までの営業で、六本木まで行かなくても夜まで遊べるようにした。オーナーは、今後もさらなる新展開を考え、飽きのこない店舗にしていくという。両店はこれらのサービスにより、若者の客層にも対応できるようにし、麻布十番商店街をより幅広い客層向けの街にした。店の内外装にも工夫をみせる。Lau-Lauは、バリの海辺をイメージしたオープンテラスを、犬同伴でも入店できるように設定し、麻布十番に多い犬を連れた客層の獲得に成功している。また十番スタンドは、立ち飲み屋でありながら、天井を高くすることでモダンで開放的に、足下には足を乗せるバーを設置することで疲れないように配慮し、女性一人でも入店できる店造りをしている。オーナーによると、「このようにサービスも店舗の内外装も幅広い客層向けにすることで、自店のみでなく、麻布十番商店街全体が活性化できれば」ということだ。競合となりえる新店舗も、ますます増えることを期待し、ともに活性化していきたいという。「麻布十番に行ったら、とりあえず何かある」そんな期待を持てる街を目指した経営を考えている。


Lau-Lau

■老舗がみせる“変身”と、守り続けるあたたかさ

もう一店注目したのは、今年の8月にオープンした「Naniwaya Cafe」。「およげたいやきくん」のモデルになったたいやき屋「浪花家総本店」の新業態である。たいやきの小豆を用いて、たいやき以外の新しいメニュー開発に挑戦している。「新しい店ができて、活気が出るのはいいこと。老舗も、これからはうまく変身できないと」と語るのは、同店のオーナー神戸正彦さん。麻布十番商店街で育ち、以前は本店でたいやきを焼いていたという。


浪花屋総本店 Naniwaya Cafe きなこロール たいやきモナカ

「牛乳と小豆がよく合う」ということで作ったロールケーキは、生クリームときな粉、そして本店と同じ釜でたいているあんこを組み合わせた。また、以前麻布十番にあった洋菓子店「泉屋」のクッキーを、日替わりで提供するサービスもある。さらに、たいやきではできないお中元やお歳暮といったギフト開発も行う予定で、日々「変身」を目指している。しかし同店をオープンさせる前から、変身は始まっていたという。「浪花屋総本店では、小豆のお釜が前に出ているでしょう? あれって和菓子屋さんならナシなんですよ。昔はうちもお釜が一番奥にあって、壁を見ながらあんこ練ってたんですよ。でもそれじゃおもしろくないでしょ。だからお店の一番前に持ってきて、ガラス張りにして、練っていながらもお客さんの顔が見えるようにして。そば打ちと一緒で『変なものを入れていませんよ。僕にはこんなに腕がありますよ』というのを見せるためにやっているパフォーマンスだから」。さらに、あんこ。客に、昔から変わらないおいしさだ、と思ってもらうためには、逆に味を変えなくてはいけないという。「ずっと同じだと、おいしくなくなったって言われちゃうのよ。お塩の量を変えてみたりとか、ちょっとずつ進化させないと。ずっと同じもの出してると忘れられちゃうよね。だからちょっとずつおいしくしていかないと」。常に、商品開発で試行錯誤を繰り返している。


このように商品もパフォーマンスも、老舗には変身が必要。しかし、変えたくないものもある。それは、商店街の気質だ。「台風の時に来たお客さんなんだけどさ、テラスでタバコ吸ってたのね。で、オレがそのお客さんのところに行って、ちょこちょこっと話して、持ってきてた傘をバタバタってはたいて畳み直したら、後日お礼のお手紙をくれて」。この自然に出てくるホスピタリティと、客とのコミュニケーション。たいやきを焼くところを見ながら、あるいはカフェで新作の和洋菓子を食べながら、「今日は天気いいね~」などと店の人と話す。何年も通ううちに親しくなり、そのうち子どもを連れていき「大きくなったね~」と声をかけられ、何世代にも渡り長いつきあいになるといった、昔から変わることのない人と人とのつながり。もう今では見ることが少なくなったこのつながりが、麻布十番商店街伝統のあたたかさといえるのではないだろうか。


オーナー神戸正彦さんと会長の神戸守一さん

■今後、麻布十番商店街の発展を支える要素は

裕福な客層が多かった麻布十番。しかしここ最近、客層ががらりと変わったことにより、新規参入をはかる店舗が増えた。神戸さんによると、それは「十番小バブル」ともいえる現象だ。幅広い年齢層を獲得できる店舗の開発を手掛けたLau-Lauと十番スタンドのような店舗が、これからはもっと増えていくだろう。一方で、神戸さんから感じられる麻布十番商店街らしいあたたかさ。この2つの経営方針が、今後の麻布十番商店街の発展を支える重要な要素となるのではないだろうか。六本木ヒルズや東京ミッドタウンといった、21世紀型都市開発が進むエリアの中で、老舗と新店舗が混合する不思議な魅力を持った麻布十番。六本木経済新聞では、今後も麻布十番商店街の動向を随時レポートしていきたい。

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