「キャバクラ」は、時間制の料金設定でキャバクラ嬢、ホステスと呼ばれる女性従業員(キャスト)が相席して接客を行い、会話を楽しみながら飲食できる店のことで、「キャバレー並の比較的安い料金で、クラブのサービスが受けられる」ことから名付けられたもの。六本木交差点から半径500mのエリア内だけでもキャバクラ、クラブの店舗数は100店舗を超えるという六本木はキャバクラの激戦地区だ。都内の歓楽街である歌舞伎町や銀座などと比べて、利用客層はマスコミ、芸能人、広告などのいわゆる「業界人」をはじめ広く利用され、六本木ヒルズの誕生によりIT系会社員など新たな客層も多く目立ち始める都内きってのキャバクラバブルな街のひとつだ。一方で東京都の条例改正などにより、キャバクラへの取締りが厳しくなったことで過酷な生き残り競争も繰り広げられている。このような背景の中、六本木経済新聞ではキャバクラを取り巻く業界の動向を追いながら、キャバクラ嬢たちの働き方など六本木ナイトワークの変化についてレポートする。
「テレビドラマの影響もあり、水商売に対するマイナスイメージが少なくなり、『キャバ嬢』は一種のステイタスにもなってきた。キャバクラ嬢をやりたいという女性は少なくない」と話すのは、ナイトワーク業界専門の職業紹介所「コムテックジャパン」営業課長の白幡武司さん。今ではキャバクラ嬢出身の芸能人や「キャバドル」と呼ばれるカリスマ的な人気を誇るキャバクラ嬢もいるなど、「キャバクラ嬢」は社会的にも市民権を得た。同社は、先駆けて1999年に同事業を開始、会員約6,000人・登録店舗都内約550店舗のネットワークを持ち、広島や札幌に営業所を持つなどナイトワーカーのためのハローワークを展開している。仕事を求める女性が登録し希望する労働条件を提示、同社が契約している店舗の中から、条件にあった店を紹介することで効率的に双方の理想に近いかたちでの入店を提供するもので、店舗側からの紹介料で運営しているため、女性は一切お金を支払うことがない。これはキャバクラ嬢に関心が高くなっている女性にとっては強い味方だろう。
キャバクラといった業態において、最大にして唯一の商品はキャバクラ嬢と呼ばれる女の子たちである。いかに顧客のニーズに合う女の子たちを揃えることができるかが経営を左右する。コストを抑え、いかに質の高い女の子を採用できるかがキャバクラ業界の生き抜く秘訣であり、リクルーティングは死活問題だ。そんな中で2005年4月、石原慎太郎東京都知事が提唱した「東京都迷惑防止条例改正条項」の施行によってキャバクラなどの店舗の客引きやビラ配布、スカウトが禁止された。雇用関係にかかわらず条例違反となり、罰金や懲役刑を科すといった取締りの強化は、ハローワークを行なう同社にとって追い風にもなっている。白幡さんは「誰もが楽しめる安全で健全な業界にしていきたい」と新たなナイトワーク業界を展望してくれた。
もともとアパレル店員をしていた女性(22歳)は、昨年キャバクラ嬢に転身した。「接客という仕事をもっと極めてみたかった」と自らの意思で決断し、六本木の店へ入店。いまやお店を代表するナンバーワンとして勤務する。「誰でも向いているわけじゃない。あくまで主役はお客さまで、キャバクラ嬢は主役ではない」と自らの思いを話す。ほとんどのキャストは自らの意思で入店してきた女性ではなく、スカウトによる入店だ。条例施行後も、スカウトマンが東京都以外の地方に出向いて女性のスカウト活動をしたり、中にはキャバクラ嬢のスカウトだと明かさずに「スタッフ募集」という触れ込みで勧誘を行なう店も少なくないという。「最初は騙されたと思って入店してみたが、今は収入も環境もいいので満足している」(女子大学生・23歳)、「キャバクラ嬢をする前の職場は収入も少なく、人と話す機会もなかった。今は満足」(27歳)とキャバクラ嬢の仕事に関する満足度は他の仕事に比べると思ったより高いようだ。「女性の友人にも男性の友人にも働いていることは伝えている。やましい思いは一切ない」(女子大学生・23歳)が話すように今では「キャバ嬢」がひとつの職業として認識されてきているのだろう。
「キャバ嬢」のブランディング、キャバクラ業界の活性化のために始まった「東京お水サミット」「キャ万博」が六本木のヴェルファーレで開催されている。都内約50店舗のキャバクラ嬢、ホステスが参加し、来場者数1,000人を動員するという巨大なキャバクライベントだ。「1万円以内で50店舗回れるのが疲れるけど面白い」(会社員・32歳)、「今日はひいきにしている子に会いにきた」(会社員・40歳)などキャバクラの入門者からヘビーユーザーまで幅広い層から人気を博している。参加したキャバクラ嬢たちも「六本木以外の店舗も参加しているのでいろいろと違いがあって楽しい」(六本木勤務キャバクラ嬢、20歳)、「こちらから声を掛けたい素敵な男性が多いので楽しい」(上野勤務キャバクラ嬢、22歳)といつもとは違ったシチュエーションに楽しみを覚えているようだ。同イベントに出店した六本木のキャバクラ店の店長は「今日は新規のお客さまを獲得するために店のナンバーワン、ナンバーツーを揃えて連れてきた」と新規顧客獲得に向けて鼻息を荒くする。「今後、東京ミッドタウンが完成すれば更に客足は伸びてくるはず。このようなイベントでもっと『キャバ嬢』に注目が集まって、たくさんの女の子がこの世界に興味を持って欲しい」と期待している。将来もしかすれば、「キャバクラ嬢」がなりたい職業としてランキングされる日がくるかもしれない。
昨今の六本木をはじめとしたキャバクラシーンにおいて、大型店と老舗店の“店舗の二極化”が進んでいるという。大型店では充分な資金によってサービスやキャストに力を入れることができ、老舗店では昔ながらのブランド力とリピーターによって生き残っていける。それとは逆に、坪数30~40の中間店は特に競争が激しく、過当競争によりキャストへの人件費投下で利益も薄くなってきているようだ。100以上の店舗が密集する街・六本木はヒルズ誕生後、会社員も増えて更に競争が激化した。そもそも六本木はいわゆる業界人が集まっていたが、普通のサラリーマンが増え、キャストの女の子たちの年齢層も下がり、間口が開がって敷居が低くなってきたことも原因のひとつだろう。六本木は今も昔もトレンドの最先端を走り続け、変化を繰り返しながら形成されてきた街であり、そういった変化や競争など淘汰の歴史があって街は発展を繰り返してきた。今後、各店舗とも更なる競争から知恵をだして生き残っていかなければならない。それは勤務するキャバクラ嬢本人たちも同じ様に感じている。前出の22歳のナンバーワンのキャバクラ嬢は「この街に居続けるためには勝ち残っていかなければならない。私は六本木以外にいくところがない」と笑いながら話してくれた。六本木の夜にもきっちりと勝ち負けが存在している。華やかな舞台の裏は、他人が思っているよりも楽なものではない。六本木ナイトワーク業界、これからが見せ場になってくる。