特集

六本木経済新聞デザイン特集・第一弾
デザイン&アートが六本木を変えていく!

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■毎日6,000人が訪れるカルチャーショップ

六本木ヒルズの「東の玄関」であるTSUTAYA TOKYO ROPPONGIは、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営する次世代に向けた新型店舗として、スターバックスコーヒーと融合させた売り場を作り、店内のソファで本を読みながらコーヒーが飲める空間と、オリジナル性を重視した棚割りをセールスポイントに、オープンから2年半経った現在でも、毎日約6,000人の来店者数、2,000人の実購買者数(3人に1人が買い物している)を記録している。同店は六本木というエリア特性をどのように感じているのだろうか。上田元治店長は、「本店舗の立地環境は六本木ヒルズでもあり、麻布十番商店街の先でもあるというヒルズと麻布十番の結節点といった意味合いをもっている」と話す。昔ながらの麻布十番商店街と流行最先端の六本木ヒルズへと流れる導線のあいだにあり、朝はコーヒーを飲みに地元の人が訪れ、夕方になると会社帰りの人が立ち寄るなど、生活導線の延長に位置づけられる同店は、「生活提案」をコンセプトに掲げている。「レンタルとか、CDを売るとか、本を売るとかバラバラではなく、複合的に生活者の皆様のスタイルに合わせた業態」(上田店長)として、書店である以上に、入店しやすい文化施設としての機能も兼ねているようだ。上田店長は六本木の印象を「六本木というのは常に時代の先端を走っている街だと思っています。(渋谷、新宿、池袋などに比べて)六本木だけは変わらずにずっと六本木としての独特のトップを走っている街」として、エリア特性にあわせた六本木店ならではの展開を行っている。

TSUTAYA TOKYO ROPPONGI
TSUTAYA TOKYO ROPPONGI外観 TSUTAYAインテリア TSUTAYA本棚

■キーワードは「リピーター」。六本木でアートを発信する理由

同店では、他地域のTSUTAYA店舗ではあまり見かけない大規模な販促プロモーション展示や、特設売り場の設置、アート作品の展示など、積極的に大型の店頭施策を打ち出している。店内に実車を持ち込む展示も行った。通常の店舗以上に店頭施策に力を入れる理由は何だろうか。同店の主要利用客はリピーターが多く、麻布など周辺の住宅街に住んでいる人が多い。その一方で六本木に多いデザイン会社などのビジネスユースもあるそうだ。「あきられないようにしたいというのがあります。(同店が)リピーターのお客様で成り立っていると思いますし、レンタルということでいえば、会員制をとっており、何度も足を運んで頂いてますから、必ず来た時に何か発見があるというお店でありたいと思っています」(上田店長)。リピーターを多くつくることは、店舗にとって優良顧客を多くかかえることだ。利用客を満足させるためのコンテンツとしてデザイン/アート関連の展示を充実させ、店頭施策のクオリティーを維持し、ハイレベルのカルチャーを定期的に発信すること。このような環境があれば、目的なく店内に訪れた人が何かしら発見を得ていく事ができ、新規利用客になっていく。これらの店頭施策は、六本木というエリアのデザイン/アートを含むカルチャーへの意識を日常生活から変えていると考えることができるかもしれない。また、上田店長は同店を「本当の価値をお客様に提供して、長く利用して頂けるような、ファン作りをするのが目的」と言う。同店が豊かさとしての文化価値を提案していることにも注目すべきだろう。今後も六本木の住人の憩いの場、ビジネスマンにとっての仕事場、住居につづく「サードプレイス」としての空間として、くつろげて楽しめる、入店しやすい場所でありつつも、店のレベルは下げないでいたいと上田店長は考えている。

TSUTAYAソファシート TSUTAYA店頭施策

■「ヒルズの根っこ」にできた、もう1つの発信拠点

Super Deluxe(スーパーデラックス)は西麻布にあるイベントスペースとして2002年のオープン以来、デザインユニットのクラインダイサムアーキテクツ(以下KDa)やアーティストの生意気などによって共同運営されている。プレゼンテーション大会の「ペチャクチャナイト」や、アンダーグラウンドシネマの上映会など、月に25個ものジャンルを選ばない独特なイベント展開が話題を呼び、「TIME ASIA」誌(2004年)では「アジアのベスト100のコト」としてヨドバシカメラと共に日本代表で選出された東京を代表するアートスペースだ。

スーパーデラックス クラインダイサムアーキテクツ

同店が六本木・西麻布に店を構えた理由について、KDaのマーク・ダイサム(以下マーク)さんは、「六本木ヒルズの根っこ」として、芋洗坂にあるコンプレックスギャラリー(オオタファインアーツ、TARO NASU GALLERY、バー・トラウマリスなどが入居)と同じくヒルズ周辺環境を支える文化施設という位置づけで、スーパーデラックスをつくったと言う。また、アストリッド・クライン(以下アストリッド)さんは「六本木ヒルズができるし、これからいろんなお客さんが来るので。六本木には以前、TN Probe(1999年まで鳥居坂にあった、大林組が運営する文化事業施設。現在は本社内に移転)があって、すごく素敵な展示や、きちっとしたキュレーションをしていたので、それとのバランスをとろうとしたんですね。MAM(森美術館)だけではなく、これからは国立国際美術館もできますし、今後(六本木が)どんどんミュージアムタウンになっていくと思うんですが、きちっとした感じだけではなく、もっとインプロビゼーション(即興)を大事にしたいんです」と言う。きちっと鑑賞するタイプのデザイン/アート体験だけではなく、ラフに楽しめる体験としてのイベントを開催できる環境であること。これがKDaが考えるスーパーデラックスのポジションだ。

「インテリアよりもコンテンツでみせていきたいですね。よくバーとか、クラブとか、ラウンジとか、とにかく素敵なインテリアをつくりますよね。でも、そこで雰囲気が固まっちゃうんですよ。その店の雰囲気が合わなかったらお店に来ないとか、雰囲気に合わない事はできないとか。アイデアを限定しちゃうんですね。スーパーデラックスはそうじゃなくて、とにかくハコだけなので限定したくないんですよね」とアストリッドさんは話す。クリエイティブな人と出会うこと、面白いアイディアをもった人と出会うことで、お互いに刺激となり、新しい関係やアイディアが生まれていく。人間至上主義、アイデア至上主義とでも言えるだろうか。このように、六本木のスーパーデラックスから生まれたネットワークが、人を通じて他の地域へと伝染していく。六本木ヒルズの根っこにできたデザイン/アートの発信拠点といえるのではないだろうか。

クラインダイサムアーキテクツ スーパーデラックス看板 スーパーデラックス外観

■六本木発のビジネススタイルはデザイン/アートから生まれる?

同店のコンセプトは「Thinking Drinking」。同店がユニークなのは、KDaが考えるビジネススタイルをショップコンセプトに当てはめていることにある。「私たちの仕事はあんまり仕事とか、アフター仕事とか分けられないのですよね。ほんと24時間仕事やっているみたいな感じで。だからよくデラックス(2005年まで麻布十番にあったKDaの事務所。現在は移転)はデイタイムオフィスで、スーパーデラックスはナイトタイムオフィス。ナイトタイムオフィスは他のクリエイティブな人たちとミーティングとか、お客さんと一杯飲みながら(ミーティングを)したりとか、リラックスしてやる」。閉じたオフィスにこもっていても、必ずしも効率的な仕事ができるわけではない。オフィスの延長としてのイベントスペースで一杯飲むこと、デザインやアート体験を通して新鮮な発想や関係を手に入れ、それをまた仕事にフィードバックする。ワークスペースの概念を大きく広げる事で、ビジネススタイルはオフィスを抜け出て、イベントスペースにまで広がっている。このことは、デザインやアートをビジネスに取り込んでいる、と考える事もできるのではないだろうか。六本木発のビジネススタイルはデザインとアートから生まれると言えるかもしれない。

ペチャクチャナイト観衆 ペチャクチャナイトスピーカー

■「LOVE&HATE」な街・六本木のこれから

元来、六本木には銀座のようなギャラリー群もなく、大型の美術館も存在しなかった。2003年4月の六本木ヒルズオープン以来、森アートセンターを筆頭に、周辺にTSUTAYA TOKYO ROPPONGI、スーパーデラックス、コンプレックスギャラリーなど個性的なデザイン/アートを発信する施設が生まれている。これらの中には、森ビルからの提案で開発を進めた施設もあり、デザイン/アートを土台にした、大規模な都市プロジェクトとして六本木を再開発する計画が進行していることがわかる。

六本木の街について、アストリッドさんは「六本木ヒルズができた当時は賛成と共に、批判もあった。でもこういう大きな街とか村とか作るのは、パーフェクトになるわけないんですよね。どんな街をみても100年とか200年のあいだでどんどん進化して、良い形になっていったんですね」と、長い目で六本木の進化をみつめている。また今後の注目エリアとしてマークさんはミッドタウン、六本木ヒルズ、AXISビルを結んだデルタ地帯内、とくにAXISからミッドタウンに流れる外苑東通り沿いの発展に注目している。「これから素晴らしい場所になるかもしれない」とマークさんは話す。2007年のミッドタウン完成をひかえ、TSUTAYA TOKYO ROPPONGI上田店長は「ミッドタウンができたからといってヒルズ側が閑散とすることはない、むしろ六本木の街全体が活性化するのではないか」と考えている。六本木自体が「大人の楽しめる街」として、文化的な要素と商業施設を融合させた街となり、結果的に今までの六本木のイメージから新しくなれば、とは上田店長の希望だ。

六本木でデザイン/アートすることは、作品を眺めるだけではない。ライフスタイルの一部として体験すること、またビジネスの一部としてデザイン/アートが機能できるかもしれない。六本木の人々の意識にデザイン/アートが芽生えることで、文化都市・六本木としての土台が形成されていくことが、2店舗の取材を通じてわかってきた。

「LOVE & HATEの関係なんですよね」とアストリッド・クラインさんは自身の六本木への想いを話す。六本木は、ヒルズや周辺文化施設など昼の生活とキャバクラやバーなど夜の生活が共存する街。街にはこのような環境下で暮らす、人種や職業も様々な人たちが生み出すライフスタイルのレイヤーがあり、そのあいだから生まれるギャップが、六本木の魅力といえるのかもしれない。これからも、デザイン/アートを巻きこんだ六本木ライフスタイルはまだまだ発展し続けるに違いない。

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