特集/コラム

【エリア特集】2006-07-03

取締役全員がニューハーフ!?
「ニューゲージ」社長に聞くニューハーフ・ブランド論

最近、テレビ番組などで「ニューハーフ」と呼ばれる人たちが頻繁に登場している。ニューハーフパブは女性客で賑わい、リピーターも多いという。そして2006年3月、西麻布に取締役全員をニューハーフで構成し、Webコンテンツの企画・制作や美容関連のマーケティングを手掛けるIT企業「ニューゲージ」(西麻布1)が誕生した。なぜ今ニューハーフが注目されるのか? 同社の代表取締役で、カリスマニューハーフとしても著名な如月音流(きさらぎねる)さんの人物像にフォーカスしながら、その真相に迫る。

■きっかけは、北海道でのラーメン店時代のケータイ絵文字

ニューゲージ社長、如月音流さん  如月音流さんの第一印象は、スレンダーで聡明な美しい「女性」。彼女が「ニューハーフ」であると知って驚く人は多いだろう。電脳ビジュアル系ニューハーフ」を自称するIT社長・如月さんの、現在に至るまでの経緯を聞いてみた。

 


北海道の「男性」時代 如月さんはつい数年前まで、地元・北海道で実家の経営するラーメン店を手伝っていた。その「ITの申し子」ぶりは既に当時から発揮されていたようだ。この頃、如月さんが夢中になっていたのが、アスキーアートで携帯メールの絵文字を作ること。仕事の合間を縫っては絵文字を作り、友達に送っていた。しかし、これが友人の間で予想以上に好評だったことから、今度は絵文字がダウンロードできるケータイサイトを作り、メールマガジンを発行するようになる。当時の如月さんの1カ月あたりのパケット使用料はなんと8万~9万円にも上った。しかし開始から3カ月後には徐々に企業から広告出稿先として注目されるようになる。

絵文字作品 その後、会員数はあっという間に30万人を突破し、個人運営のサイトとしては異例の人気コンテンツへと成長した。そして、転機となる出会いが訪れた。女性向けモバイルサイト「ガールズウォーカー」などの事業で急成長中の「ゼイウェル」の大浜史太郎社長が如月さんのサイトを見つけ、「うちでも面白い絵文字を作ってほしい」というオファーが舞い込んだ。如月さんはゼイウェルが発行する絵文字のメールマガジンを企画するようになり、瞬く間に会員は10万人を超えた。この成功をきっかけに如月さんは上京し、ガールズウォーカーの企画に携わるようになる。「ただ単純にガールズウォーカーはすごく面白そうだったから、好きで手伝ってたんです。でもなぜかどんどん仕事が増えていって、いつのまにか「副編集長」と紹介されるようになっていました」と笑う如月さんには全く気負いがない。

ガールズウォーカー
ゼイヴェル

ニューゲージ

■ニューハーフになったきっかけ、ニューハーフの会社を作ったきっかけ

北海道からの上京当時 上京した当時、如月さんはまだ「男性」だったという。

「昔から女性になりたいという気持ちはあったんですけど、上京した時は普通に音楽とかやってました」と振りかえる。「性の切り替え」のタイミングもまた、ネットによって訪れた。「ネットで自分と同じようなことを思っている人をたくさん見つけたんです」。こうした出会いの中「自分もそろそろ男をやめてもいいんじゃないか」と決断し、「ニューハーフ」としての人生の新たな一歩を踏み出すこととなる。

 しかし、その後「ニューハーフ」の生活パターンの問題点に気付く。「ニューハーフは昼間仕事をしている人があまりいない。たいてい夜の仕事をしているか、昼にカムアウトしない状態で働いている」。一般の会社で、ニューハーフやセクシャル・マイノリティがその事実を隠さないで働くことができ、周囲の同僚と同じ土俵で評価を受けるのは、今現在の日本社会では難しいからだ。この環境をどうしたら変えられるか?そう考えた如月さんは「仕事で自分たちの実力を社会に認めてもらえばいいのだ」という答えに至った。如月さん自身は当時ゼイウェルという自分の居場所を見つけていたが「ニューハーフとしての組織を作れば、より広い範囲に情報を発信できると思ったんです。社会を変えていくために、まずは自分の会社から始めようって」。そんな想いから、「ニューゲージ」は誕生した。

副編集長を務めるガールズウォーカー ニューハーフの会社を作った理由はもうひとつある。如月さんいわく「ニューハーフはキレイになった自分を見て欲しいという願望を持っているから、自らホームページを作り、自分の写真をきれいに加工して掲載する『自分で自分のPR活動をするタレント』のようなところがある」という。これは個人的ではあるが、「ブランディング」「プロデュース」といった作業と同じではないだろうか。「ビジネスとしてのWebサイトも考え方は全く同じ。日常的にそういった感覚が身についているニューハーフは、ネットビジネスに向いていると思うんです」と、如月さんは社内のスタッフを満足げに見渡した。


■ニューハーフというブランド

 実際、ニューゲージの事業に対し、周囲からどんな反応を得ているのかを聞いてみた。

「大手企業から、ニューハーフの意見を聞きたいというオーダーが増えつつあります。今、ゲイやニューハーフであるということは、もはや『ブランド』なんです」。

 それは「LGBT市場【※註】」というマーケットが誕生したことからも読み取れるように、社会全体がゲイやニューハーフを流行感度の高いオピニオンリーダー的な存在として注目しはじめているからだ。如月さんはこの傾向について「LGBTという市場ができたのは、セクシャル・マイノリティを可処分所得が多く(単身者と捉えられるため)消費が活発な層として注目した意図が強いと思いますが、今後はマーケットにおいて『ゲイの中で流行ったものは必ず次の段階で一般にも流行する』といった波及モデルが根付き、ニューハーフやゲイの発言が重要視される傾向がより強くなっていくと思います」。実際、ニューゲージへの問い合わせは、女性向けの商品開発などについての協力依頼が多い。「今、特にニューハーフを好意的に受け止めているのが他ならぬ女性たち。彼女らは自分たち以上に美容に詳しいニューハーフが発信する情報にとても関心を持っています」。女性にとってニューハーフは、ある種タレント的な要素を持っているのかもしれない。今後「生き方」がブランド化していく傾向は強まりそうだ。

【註】
LGBT:レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの略称で、性的少数者の総称。統計値はないが「yes」編集部によると「潜在的に15歳以上の人口の10%前後とみられる」

■ニューハーフのビューティーカウンセリング

ニューゲージ社内の様子 如月さんに「六本木という地域性に着眼したビジネスのアイデアはありますか?」と聞いてみた。

「六本木駅の中にニューハーフのアドバイザーがいるメディカル・ビューティースタンドがあったら面白そうですね」。それは、整形についてのカウンセリングや、お勧めのサプリメントなど身近な美容関連商品の販売など、美容に関するあらゆるサービスを、ニューハーフのスタッフによって提供するスタンドだという。「同性の友人であっても整形についての相談はなかなかし辛いですが、ニューハーフであれば話が面白い上に『私、鼻とオデコをやったのよ』と体験談を交えながらアドバイスすることができる。相談にくる方も気軽に来れるでしょ?」とアイデアは尽きない。
 六本木のニューハーフパブは新宿2丁目とは雰囲気が異なり、高級なイメージがあることから、「女性以上に綺麗な『六本木のニューハーフ』というブランド感も有効に活用できると思う」と他地域にない優位性にも触れた。


==インタビューを終えて==

 楽しそうに話す如月さんを見ていて、「ニューハーフという生き方自体がブランドになる」ということの意味がわかったような気がした。これからのビジネスは、誰をターゲットに据えるかということだけでなく、事業を展開していく側の人間自身にどんな付加価値があるのか、ターゲットに対してその等身大を見せていくことが鍵になるだろう。

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